ベートーヴェン交響曲第3番/ベーレンライター版使用にあたって


このたび、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を演奏するにあたって、ベーレンライター版の使用をする事と致しました。この記事では、その理由などについて記載をしようと思います。


多くのアマオケで利用されるベートーヴェン交響曲第3番の楽譜はIMSLPから落とせるもので、これはブライトコプフ社から1862年に出版されました。


この譜面は小節番号や練習記号の表記が無い、その後同じブライトコプフ社から出版された楽譜に反映されている改定(と言っても演奏の大勢に影響があるとまでは言えないかもしれませんが…)が反映されていないなど、実用に供するにはある程度の手間がかかるものです。


上記を踏まえ、その後の研究が反映され、且つ小節番号や練習記号の体裁を予め整えられた楽譜を使って効率よくリハーサルを進めたいと考えた事、また、心機一転新しいオーケストラでの演奏という事もあって、思い切ってスコアとパート譜全てを購入してみました。


1997年に出版されたベーレンライター版です。


過去はどんどん遠くなる一方で、楽譜がどんどんブラッシュアップされていくのは若干不思議な気もしますが、現実的に新品購入が可能で、実用に供された実績が多数ある「安心、最新」の楽譜となると、このベーレンライター版になるかと思います。2月にドイツに注文し、ウクライナの戦火をくぐり抜けて4月末に日本へ到着しました。皆様にご使用いただくパート譜は真っサラ新品です。


そもそも、交響曲第3番の楽譜はベートーヴェン自身によるフルスコアが紛失しており、一般的に以下の①~⑥までの6つに分類できると考えられています。


① 本人によるフルスコア→紛失。現存せず

② 1804年初頭の写譜師によるスコア。有名なナポレオンへの献辞が消された楽譜であるが、よく言われるような、破り割いた形跡はない。(ただし強く消したのか、破れてはいる…というか穴が空いている)ベートーヴェン本人による訂正が記載されている。(ウィーン学友協会蔵)

③ ④の出版前に写譜されたパート譜。8つの木管パートのうち、5のパートにベートーヴェン自身による訂正書き込みがある。(ウィーン学友協会蔵)

④ 1806年にウィーン美術工芸社により出版されたパート譜。1807年から1809年の間にいくつかの修正と共に再版された。

⑤ 1822年ジムロック社によりドイツで最初に出版された。ベートーヴェン自身が関与した証拠はない。

⑥ 1809年にロンドンで出版されたスコア。この版は何十年もの間ドイツでは知られておらず、ベートーヴェンの関与も無い。



ベートーヴェン自身の表記が乱雑で解りにくいうえに、本人自身も繰り返し訂正をしていること、写譜師の関与、表記のミス等によって一貫性ある校訂ルールが失われた面が否定できず、何をもって「正」となすかについては長年の研究の対象とされています。


以下、参考までにIMSLPでDL出来るブライトコプフ版(1862)との違いを記載してみます。全て拾ったつもりではありますが抜け漏れがあるかもしれません。また、解りにくい表現になっている個所があるかと思いますが、以下の記載に関わらず奏者の皆様はパート譜通りにご認識頂ければ大丈夫です。

(便宜上、音名は全てin「c」読みで記載をしている事をご了承ください。)


第1楽章

(小説番号: ベーレンライター版はどうなっているか)

・11~12:Vn1 11~12までスラーが繋がっている

・15:Ob p表記が追加されている

・21~22:Fl1、Cl1、Fg スラーが繋がっている

・23,27:Vn2,Vcのスラーは小節の終わりで切れる

・40~41: Va,Vc スラーは40の3拍目から41終わりまで繋がっている

・45 :Vn2,Va 小節頭のスタッカート無く、スラーは小節頭から(同様の220小節、448小節と同じ形に揃えた)

・53:Vn2 スラーは小節全体にかかる

・91:Cb b音は2拍目 

・98:Fl、Cl、Fg cresc表記に変更 

・113:Fg2 最初はd音(ブライトはb)

・220,221,224,225:Cl1のスラーは小節をまたがず、次の小節の頭はスタッカートとなる

・233小節: Hr1 sfp(ブライトはsf)

・243-245:Fl、Ob,Fg 出だしの4分音符はp 

・290:Fl 1拍目はh

・323:Cl、Fg1、Vc →sfp 

・419,421:Cl1タイで繋がったまま

・445:Vn2 16分音符の出だし、esオクターブ

・512:管打楽器。2拍目f(ブライトはsf)

・516~519:Cbの3拍目にsf

・531~534:f(ブライトはsf)

・531~534: Hr1と同じc音(in c読み)

・544:Vn1,2の2音目に♮。(bの可能性あり?)

・615~621:Hr1,3 スラー

・623~626:管楽器 スタッカート無

・658:Tr付点2分音符


第2楽章

・6:Cb 3連符だけにデクレッシェンド

・21~22:Vn1 21のスラーは22小節の1拍目まで。22小節のcとfisにスラー

・40:Ob、Cl、Fg、Hr3 最後の4分音符のみf

・42:Hr1,2,3のデクレッシェンド削除。Hr1,2の3つ目の8分音符にアクセント

・45,46:Fl1、Ob1、Cl2、Fg1 スラーを小節間で分割

・50,51:Fl1 cはBの頭までタイで繋がっている

・51:Vn2 3連符はc音。(ブライトはf)

・65,66:弦楽器のスラーは小節間で切れている

・70,71:Hr2はタイで繋がっている

・72,73:Hr1はタイで繋がっている

・97:Fg2 付点16分=h (ブライトではg)

・114:Vn2 下のasは4分音符。(ブライトでは8分)

・116:Vn2 sf削除。Va 付点4分音符にsf

・149:ob1 最初の2音にスラー追加

・179:Hr3 fでスタート(ブライトはg in「c」読み)

・232:Timp 全休符。

・241:Vn1 最初の16分はスラー。(ブライトはスタッカート)

・245:Ob1,2 4分音符。(ブライトは8分)


第3楽章

・7,18:Ob p(ブライトはpp)

・58:Ob2 2拍目はb(ブライトではd)

・97:Hr、Tr sf

・111:Hr3  e音(ブライトはc in「c」読み)

・115:Hr2 e音(ブライトはg in「c」読み)

・178: Hr sfはHr2,Hr3のみ

・194:Hr全員sf

・259,260(1カッコ):Ob 259の2拍目以降休符

・340-341:Hr1,2 340-341の1拍目休み

・341-342 obスタッカート追加

・356-371:出番アリ(ブライトではこの間全休符)

・364~369: Hr1 f音(ブライトではe音 in「c」読み)

・368~369:ob fl cl スタッカート追加

・371:FL2 h音(ブライトではg音)

・408: Vn2 最初の8分音符が1オクターブ低くなっている

・435-438 管楽器のスタッカートの位置に注意


第4楽章

・36~37:f 

・48~50:Vc スラーは48,49全体と50小節全体

・59: Vla solo表記

・63: Vc solo表記

・76: Fl、Ob、Cl スラーは76-

・100,101: Fg 小節ごとのスラーあり

・110: Fl1 p表記(ブライトではsf)

・137:Vn1 最初2音がスラー。以降スタッカート

・141、143: Vn2 スラーとスタッカートの配置が異なる

・150、152: Va スラーは最初の2つの8分音符まででVn2と同じ形。

・153: Vn2 sf (ブライトではf)

・195:Vn1 小節頭のaはスタッカート、以降スラー。

・210、218:Fl2、Ob1、Fg1  スラーなし。Vn1だけスラーあり

・213、221、241、245: Fl1 スラー無し

・269、273: Vn1 最初のg及びcがスタッカート

・312: Vc/Cb 2つ目の16分音符に(♮) 

・350: Cl1,2 割り当てがブライトコプフと違う(パート譜通りに演奏すれば良い) 

・369: Vc Cb g音が最終拍後半になっている

・386: Hr2,3 sf表記 

・395: Vla 最初の16分音符はb音(ブライトだとg) 

・435,436:Fg、Hr1,2 スラーの位置が修正されている

・437,438:Cl、Hr3 スラーの位置が修正されている

・439,440:Fl スラー位置修正。上記と同様

・445小節: Vn1,2 1拍目にもsf

・447: Vn2最初はb音。(ブライトだとg)

・459-460:Fg1 オクターブ上げ

 

楽譜に関しては以上となります。どんな演奏にしたいのかについては各回のリハでとは思っているのですが、全員が全部のリハに出られるわけでもないので、なるべく言語化して追って表明しようかなと考えています。

DANDELION指揮者 藤田淳平


Dandelion

Together we create! Tune in with us! -Orchestra Dandelion Tokyo-

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